傀儡の恋

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 珍しくも、アスランは一人だけでやってきた。
「カガリは?」
「行政府だ。色々とやらなければいけないことがあるらしい」
 それは当然だろう。彼女はこの国の代表なのだ。しかし、それならばなお、アスランは彼女のそばにいなければいけないのではないか。
「……何の立場も持たないことがカガリのためになると思っていたんだがな」
 彼はそうつぶやく。
「だが、そうではなかった」
 その顔には後悔の色が色濃くにじんでいる。ただの護衛では国政に関わる部分には足を踏み入れられないそういうことなのだろう。
 だが、アスランはすぐにそれを振り払った。
「俺はプラントに行ってくる」
 代わりに彼はこう言い切る。
「アスラン」  なぜ、と思う。あそこはすでに彼のふるさとではない。辛い思いですかないはずだ。
「プラントの情勢が気になる……」
 その疑問を読み取ったのか。アスランはさらに言葉を重ねてきた。
「俺でも何かできることがあるなら、アスランの名前でもアレックスの名前でもかまわない。このままプラントと地球が戦うようになれば、俺たちが何をしていたのか、わからなくなってしまうから……」  周囲の言動で彼は自分の足下が不安定になっているのだろう。
「……そう」
 そんな彼にどんな言葉をかければいいのか。キラにはわからない。
「アスランが決めたことなら、必要なんだろうね」
 だから、彼の言葉を否定しないようなセリフを口にする。
「でも……それだからこそ、気をつけてね」
 何を、とはあえて口にしない。それでも彼には伝わるのではないか。そう考えたのだ。
「わかっている」
 即座に彼はこう言い返してくる。
「お前も、ラクス達に迷惑はかけるなよ?」
 アスランが苦笑と共に言ってくる。
「わかっているよ。ここにはバルトフェルドさんもラウさんもいるから相談できるし」
 それにこう言葉を返した瞬間だ。彼の表情が変化する。
「ラウさん、ね」
 少しだけ低くなった声はどうしてだろうか。
「あの方は信頼しても大丈夫ですわ」
 そこにいきなりラクスの声が割り込んでくる。
「少なくとも、わたくしとマルキオ様、それにバルトフェルドさんはそう考えています」
 微笑みながら彼女はキラの隣へと腰を下ろす。
「あぁ。子ども達もです」
 さらに彼女は言葉を重ねた。
「ですから、安心してくださってかまいませんわ」
 これはけんかを売っているのだろうか。それともただのイヤミか。どちらが正しいのかはわからないが、アスランが機嫌を損ねたのだけは事実だ。
「……好きにすればいい」
 それでも口調だけは冷静にこう言い返してくる。
「今更、予定を変えるつもりはないからな」
 こう告げると彼はそのまま立ち上がった。
「……アスラン……」
 足早に立ち去っていっ彼の背中に向かってキラは小声で呼びかける。だが、それに答えは返ってこなかった。

「わざわざオオカミの巣に乗り込んでいったか」
 バルトフェルドがあきれたようにつぶやく。
「……おそらくですが、どこかで議長殿と顔を合わせたのでしょう。一度だけお話をさせていただいたことがありますが、議長殿はずいぶんと言葉が巧みでいらっしゃいましたから」
 アスランも、あれで純粋培養だ。あの男にすれば簡単に手玉にとれたことだろう。実際、今のプラントでもあれにだまされているものも多いのではないか。
「……キラの障害にならなければいいがな」
 バルトフェルドの懸念も理解できる。
 おそらく誰もが今のままではいられない。キラも表舞台に戻らなければいけない日が来るだろう。
「そうですね」
 その時まで自分は彼のそばにいられるだろうか。わき上がってきた疑問をねじ伏せながら、ラウは言葉を返した。

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最遊釈厄伝